俳優・英語コーチのヒロウエノさんが、英語を実践的に使うためのポイントを語る連載。今回は、英語が聞き取れない、言葉が出てこないときの向き合い方がテーマです。「自分の英語が下手だから」と、一人で背負い込んでいませんか?自身が撮影で感じたプレッシャーや、共演者を支えた俳優の言葉などのエピソードを通して、「相手と一緒に会話を作る」大切さを考えます。
目次
「言葉が出ない」のは誰だって怖い
前回は、演技や英語の会話で、予定通りにいかない出来事も生かせるというお話をしました。でも、そういう僕自身も、いつも余裕を持って本番に臨めるわけではありません。
以前、ある作品で通訳の役を演じたことがあるのですが、キャストは一流の俳優さんたちばかり。「自分が言葉につまずいて撮影を止めるわけにはいかない」、そう考えるほど「次のセリフが出てこなかったらどうしよう」という不安が大きくなっていったんです。
十分に覚えていたはずなのに、本番が近づくと「あれ、最初の一言は何だったっけ?」と心配になる。自分の番が来る直前まで、「やばいかもしれない」と思っていました。結果としてセリフは出てきました。たくさん練習していたから、口が覚えてくれていたのだと思います。でも、その間は生きた心地がしませんでしたね。
経験を積み重ねた俳優でも、そんな風になることはあります。僕は撮影現場で、ベテランの俳優さんたちがセリフを間違えるところも、本番前に繰り返し練習するところも見てきました。「あの人たちも間違えるし、練習するんだ」と知れたことは、僕にとって大きな支えになっています。
英語でも、うまく話せる人を見ていると、自分だけができないように感じてしまうことがありますよね。でも、人前で言葉に詰まったり不安になったりするのは、あなたたけではありません。
主演の「大丈夫」が空気を変えた
今回も少し、『ドライブ・マイ・カー』の撮影現場で印象に残っている出来事をお話しさせていただきます。
舞台のシーンを撮っていたときのこと。主演の西島秀俊さんをはじめ、複数のキャストが順番にセリフを言う中で、最後に話す外国人俳優さんが言葉につまずいてしまいました。それが何度か続き、その人はどんどん焦っていきました。舞台会場を借りているので、客席には大勢のエキストラもいます。主演俳優の長いセリフの後に、自分が間違えてしまう――プレッシャーは相当なものだったと思います。
すると、次の撮影に向けてカメラの準備をしている間に、西島さんがその俳優さんのところへ来て、膝をつき、英語で声をかけたんです。
「大丈夫。僕の演じている役だってセリフを間違えるのだから、君は何度間違えたっていい。リラックスして楽しんで」という趣旨のメッセージを伝えてくれました。
作品の中心にいる人物が、自らそばに来て「大丈夫」と励ましてくれる。その俳優さんにとってどれほど心強かったことでしょう。そして次の撮影では、無事にOKが出ました。
作品はみんなで作っている。だから、困っている人がいたら周りが支えてあげる。その姿を目の前で見て、素晴らしい現場だなと思いました。
会話は共同作業だから一人で背負わなくていい
うまくいかないことが続くと、人は孤独になりやすいものだと思います。「自分のせいでみんなに迷惑をかけている」と感じ始めると、周りが全員、敵のように見えてしまうこともあるでしょう。そうなると、ますます言葉が出にくくなるんですよね。
でも、撮影は俳優一人で行うものではありません。セリフの違いを確認してくれるスタッフもいれば、後でどの映像を使うか考えてくれる人もいます。全部を自分一人で心配して、背負う必要はないんです。
英語学習や英会話も同じではないでしょうか。相手の言うことが聞き取れず、何と返せばいいか分からない。沈黙が生まれると、「自分の英語が下手だから会話が止まってしまった」と考えてしまうかもしれません。
でも、会話は自分と相手が一緒に作るものです。うまくいかないことを、全部自分だけの責任にしなくていい。
相手にも、「伝わるように話す」という役割があるわけです。難しい単語を使っているなら、簡単な言葉にする。速すぎるなら、ゆっくり話す。必要ならジェスチャーも交える。相手に合わせて話し方を変えることも、コミュニケーションの一部ですよね。
だから、自分を責めすぎてしまうのではなく、心の中で「僕に分かるように話してよ」と思うくらいでちょうどいいのではないかと思っています。それくらい気持ちを強く持ってもいい、ということです。
「分からない」と伝えることが会話をつなぐ
ただし、会話が共同作業だということは、相手に全部任せればいいという意味でもありません。聞き取れなかったことを、聞き取れなかったと伝える。それは自分の役割です。分からないのに分かったふりをしていたら、相手は話し方を変える必要があることに気づけません。
「もう一度言ってもらえますか(Could you say that again?)」「もう少しゆっくり話してもらえますか(Could you speak a little more slowly?)」と、きちんと伝えてみる。相手に協力をお願いすることも、会話を続けるための行動です。
そうした行動をせずに、「自分が悪い」「英語が下手だから仕方がない」と結論を出して終わってしまうのは、一見、反省しているようにも見えます。ですが実際は、どうすれば会話を続けられるかを考えずに済んでしまう。厳しい言い方をすれば、自分を責めることで、その場のやりとりから逃げることを自分に許しているかもしれない。
反省すること自体が悪いわけではありません。でも、「僕の英語はまだうまくないけれど、一緒に何とか伝え合おう」と相手に向き合うことが、相手への礼儀でもあると僕は思っています。
自分を卑下しすぎない。そして、分からないことは分からないと伝える。その両方があれば、もう少し気楽に英語を使うことができるのではないでしょうか。
9割ダメでも1割できた自分を褒める
自分に対する見方は、英語を学ぶにあたって大切なポイントです。例えば、リスニングで9割聞き取れなかったとします。僕ならそのとき、「9割も分からなかった」と落ち込むのではなく、「1割聞き取れた!」と考えたい。ちょっとおめでたいくらいでいいんです(笑)。
小さな子どもって、少し何かができただけでも、すごく喜びますよね。英語を学んでいるときも、そんな風に「これができた」「ここが分かった」と喜んでいいと思います。
自分と常に一緒にいるのは自分自身です。だから、あなたにはあなた自身のサポーターであってほしい。周りがどう評価したとしても、自分まで自分を責め続けなくていい。
会話の内容が1割くらいしか分からなかったとしても、「でも楽しかったな」「あの人と話したことが思い出になったな」と感じられたなら、その時間には価値があります。できなかったところばかり数えるより、分かったことや、楽しかったことにも目を向ける。そうすれば、英語を使う時間が、自分を裁く時間ではなくなっていくと思います。
「また話そう」と思えることが何より大切
一度言葉に詰まったらそれで終わり、ではありません。同じ間違いをまたしてしまうことだってあるでしょう。それでも、次の機会がある。そう考えれば、一回の会話に全てを懸けなくてもよくなります。
僕が大事にしたいのは、「今日はうまくいかなかったけれど、また誰かと話してみよう」と思えることです。
「あの言葉は分かった」「聞き返したら教えてもらえた」「全部は分からなかったけれど、楽しかった」。そんなふうに、その会話で得られたものにも目を向けてみてください。英語が聞き取れないときも、言葉が出てこないときも、自分一人で抱え込まない。相手に助けを求めて、伝え合うためにできることを試してみる。そして、小さくてもできたことを、自分で喜んであげる。
自分を責めて終わるより、自分を支えて、次の会話につなげる。皆さんにも、そんな風に英語を使い続けていただけたらいいなと思います。
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