AIが英文も発音も一瞬で整えてくれる時代。便利すぎて「もう自分で考えなくていいかも」と思ってしまう。でも、その楽さの裏で“英語で考える力”が弱っているかもしれません。この記事では、AI時代の英語学習に潜む落とし穴と、うまく付き合うコツを考えます。
目次
便利すぎて、考える前に“聞いちゃう”時代
まずは、その「便利すぎる英語学習」の何が危ういのかを見てみましょう。
ChatGPTやDeepL Writeは本当に優秀ですよね。文法も語彙も自然で、言い回しもこなれている。AIが英文を整えてくれると、「うん、これでいいか」と思ってしまう。でも、それがちょっとした落とし穴になります。
AIに頼るうちに、「どの単語を選ぶ?」「どう言い換える?」といった“英語脳の筋トレ時間”が減っていくんです。
最近は、学生だけでなく社会人もAIに頼る場面が増えています。たとえば英文メール。AIに「自然な英語でお願い」と打ち込むだけで、ネイティブ顔負けの文章が出てくる。でも、その“完璧な文章”が、自分の意図を100%伝えているとは限りません。
AIに“任せきり”だと、考える力が落ちる?
AIはあくまで、入力された日本語をもとに英文を作ります。つまり、日本語の書き方ひとつで、出てくる英語の意味やトーンが変わってしまうこともあるんです。
たとえば「資料をまだ受け取っていません」と入力した場合。日本語では主語を省いても通じますが、文脈があいまいだと、AIは“誰が”を勝手に補ってしまうことがあります。“I didn’t receive the document.”と訳すこともあれば、“He didn’t receive the document.”のように、まったく違う意味の英文を出してくることもあるかもしれない。
また、「ちょっと確認したいです」と入力した場合、AIは“I’d like to confirm something.”のように、丁寧で少しかしこまった文を出すかもしれません。でも、カジュアルな社内チャットやフレンドリーなやり取りなら、“I have a quick question.”のほうが自然な場合もあります。
AIが出してくれる英文は、一見“正しい”ように見えます。でも、その「正しさ」は“あなたの意図に合っているかどうか”とは別の話。文法的に問題がなくても、トーンがずれていたり、温度感が伝わらなかったりすることはよくあります。
結局のところ、AIの出力をそのまま信じるのではなく、「この表現で本当に伝わるかな?」と、自分の感覚で最終確認できる英語力が必要なんです。AIが提案する文章はあくまで“候補”。最終的にGoサインを出すのは、やっぱり自分自身です。
微妙なトーンや立場の差、相手との関係性——そういう“行間の英語力”は、AIが代わりに考えてくれるわけではありません。AIは強力なアシスタントですが、それを正しく使いこなすには、「最後に判断する力」さえ手放さないこと。それさえできれば、AIはきっと心強い味方になってくれます。
ちなみに、AI相手の英会話も同じです。どんなにスムーズに話せても、AIは人のように“間”や表情を読み取ることはできません。もちろん、英会話学習専用のAIなら発音や文法の誤りを指摘してくれるかもしれません。
でも、リアルな会話で求められるのは、相手の反応を感じ取りながら言葉を選ぶ力。AIとの練習も大切ですが、人との対話の中でしか鍛えられない部分もあるんです。

“AIっぽい英語”が増えてる?
AIに頼り切って作文をしていると、当たり前ですが正しい言葉が出てきます。でも、どこか味気ない。まるでコピー&ペーストみたいな文(というより、実際にそうなんですけどね)。
ビジネスメールでも見かける頻度は上がっている気がします。
“I hope this message finds you well.”
“Thank you for your understanding.”
うん、完璧。でも全員が同じ文を書いていたら、そこに“あなた”はいなくなります。AIが生成する英語は、過去の膨大なデータから「最も無難な言い方」を選ぶ仕組み。つまり、AIを使えば使うほど、みんなが似たような英語を話すようになるんです。
言葉って、文化の影みたいなものなんですよね。だから、文が正しくても“文化のにおい”が抜け落ちると、どこか味気なくなる。
AIが生み出す文は、世界中の平均をとったような言葉。つまり、“誰にでも通じるけど、誰の心にも残らない英語”になりやすいんです。そう考えると、少しくらい文法がゆるくても、自分の気持ちがこもった英語のほうがずっと魅力的だと思いませんか?
そもそも英語って、話す人の数だけバリエーションがある言葉です。アメリカ英語とイギリス英語でニュアンスが違うのはもちろん、同じ国の中でも地域や世代で表現が変わります。
それがAIによって“平均化”されていくとしたら、言語そのものの面白さが少しずつ薄れてしまうのかもしれません。
「正しいけど、どこか冷たい」。それがAI時代の新しい“英語の課題”かもしれません。
AIがくれる“時間”と“気づき”
とはいえ、AIがもたらすのは悪いことばかりではありません。むしろ、うまく使えば英語学習の効率を大きく高めてくれる“頼もしい相棒”でもあります。
たとえば、ChatGPTに「文法的にどこが変か教えて」と聞けば、数秒で具体的なフィードバックが返ってきます。これまで先生に添削を頼まなければ得られなかった学びを、いつでも・どこでも得られる。そのスピード感と効率性は、まさに革命的です。
AIは私たちの「時間」を取り戻してくれる存在でもあります。英作文の添削やリスニングスクリプトの分析など、“面倒な作業”をAIに任せれば、人間はよりクリエイティブな部分——たとえば「自分の意見をどう英語で表現するか」に集中できるようになります。
さらに、AIをうまく使うと、自分では気づけなかった“クセ”にも気づけます。同じ表現ばかり使っているとか、文章のリズムが単調だとか。それを自覚して修正する力は、むしろAIがいてこそ育つスキルです。
要は、AIを“先生”ではなく“トレーニングパートナー”として扱えるかどうか。効率化と自律学習のバランスを取れれば、AIは英語学習を何倍も豊かなものにしてくれるはずです。
使う前に、ちょっと立ち止まろう
AIは使い方次第で、英語学習を大きく進化させてくれる存在です。ただし、“便利さに慣れすぎる”と、せっかくの学びが浅くなってしまうこともあります。
じゃあ、どうすればいいの? 答えはシンプルです。AIを使うこと自体は悪くない。でも、“考える前に使う”のが危ない。要するに、“AIに考えてもらう前に、まず自分で考えてみる”——この一呼吸があるかどうかです。
- まず自分で考える。
AIに聞く前に、自分の言葉で書いてみる。 - Why?で検証する。
AIの出した文に「なぜこの表現なのか?」とツッコミを入れてみる。 - 自分の声に直す。
出てきた英文を、そのままじゃなく“自分らしく”ちょっと崩してみる。
こんな手順を踏むだけで、文章がぐっと“あなたの英語”に近づきます。

あえて「AIなし時間」をつくる
AIを毎日使っている人ほど、あえて“AIを使わない時間”を設けるといいです。たとえば、
- 英語日記をAIなしで書いてみる
- ニュース記事を自分の語彙だけで要約してみる
- ChatGPTに質問する前に「自分ならこう答える」と想像してみる
この「ひと呼吸おく」だけで、英語脳の回路が再起動します。AIは便利。でも、人間の思考は“面倒くさい時間”の中で育ちます。ちょっと悩んで、ちょっと間違えて、そこから覚える——それが語学の本質です。
私たちはつい「効率的に学ぶ」ことを正義にしてしまいがちですが、語学の楽しさって、むしろ“非効率”の中にある気がします。たどたどしく考えたり、言葉に詰まったりする時間が、いちばん脳が動いている瞬間。その過程をAIに全部持っていかれたら、ちょっともったいないですよね。
たとえば今日の学習で、AIを使わずに一文だけでも自分の力で書いてみる。そのひと手間が、きっと“英語で考える力”を取り戻す第一歩になります。
便利なツールを使いこなすのは大切。でも、「自分で考える時間」だけは、これからの時代、ますます価値が上がっていくはずです。
AIが進化しても、学ぶ意味は変わらない
AIは語彙も文法も瞬時に処理できますが、感情やユーモアまでは理解できません。
英語を学ぶって、正しい文を作ることより、「自分の考えを伝えること」に近いんですよね。AIがどんなに賢くなっても、「あなたの声」までは真似できません。
英語を学ぶ意味は、きっとそこにある。AIが言葉を作り、人が意味を与える。そのバランスを見失わないように、今日も“ちょっとだけ考えてから”AIを開きましょう。
まとめ
AIは頼もしい味方です。でも、頼りすぎると、自分の思考力まで外注してしまうかもしれません。英語を学ぶ楽しさは、AIに「正解」をもらうことじゃなく、自分で「納得」を見つけること。
AIを使うなら、“共犯者”くらいの距離感で。それくらいが、ちょうどいいのかもしれません。
「ChatGPT」スキルブックシリーズ
《第1弾》 AI翻訳研究の第一人者が教える! ChatGPTの翻訳活用術!
ChatGPTなどの生成AIの登場によって、ChatGPT語を使ったコミュニケーションに、新たな時代の扉が開きました。本書では、AIによる翻訳技術を上手く使いこなし、外国語の壁を乗り越える「これからの時代に求められる」英語スキルを身につけられます。英語のメール、プレゼン、広告、レポート、etc...、あらゆる英語の発信に対応するためのノウハウが満載です。
【本書の特長】
まず、AIを上手く操るために言語をどのように捉えればよいのかを理解し、ChatGPTへの指示(プロンプト)をどう書いていくのか、という活用方法を深めていきます。
技術の進化に左右されない核心的な言語スキルが身につく一方、今日からすぐに使える便利なテクニックも満載です。
本書の構成
Chapter 1 AI翻訳の進化の核心を掴む
Chapter 2 AI翻訳を駆使する「言語力」を身につける
Chapter 3 ChatGPTで翻訳する
Chapter 4 実践で学ぶChatGPT翻訳術
Chapter 5 AIと英語学習の未来予測
購入特典:プロンプトテンプレート集
本書掲載のプロンプト(ChatGPTへの指示)のテンプレートを集めたウェブサイトを用意しました。本書の内容を、今日からすぐに実践に移すことができます。
《第2弾》 新時代の独学スキルを身につけて、生成AIと英語の壁を乗り超える!
ChatGPTなどの生成AIは、英語学習のあり方を劇的に変えています。その力を活用することで、習得までの距離はグッと縮まります。活用しない手はありませんが、いざ目の前にすると、うまく使えていないなあ、と思う人が多いのではないでしょうか。
本書は、AIと英語を知り尽くした研究者が、AIを「最高の学習パートナー」にするためのノウハウを書いたものです。これからのAI時代に、英語を学ぶ人の必読書になっています。
【本書の特長】
AIで英語独学する思考が身に付く
ツールの単なる機能や、プロンプト(生成AIへの指示)の例を紹介するだけでは「使いこなす」ことにはつながりません。本書では、生成AIの能力を引き出すスキル・フレームワークを理解することで、AIを使って自分の力で学び抜く思考術を身につけます。真の意味でAIを使いこなすための内容になっています。
多様な英語に挑むノウハウを伝授
TOEICなどの英語試験、ビジネス英語、英会話、ライティングなど、様々なジャンル・技能に関する実践例を収録しています。今、あなたが必要としている英語力を向上させるためのヒントが、必ず見つかるはずです。
AIの力を借りる英語実践術も紹介
最終章では、生成AIに英語の仕事を遂行させる実践的な活用法を紹介します。自分自身の英語力だけではなく、AIの力も借りてタスクに挑む、総合的な英語力が身につけられます。
本書の構成
Chapter 1 英語学習とAI活用の土台を築く
Chapter 2 AIの力を最大化 ―英語学習のメタ言語―
Chapter 3 TOEICの壁をAIと超える
Chapter 4 ビジネス英語の壁をAIと打ち破る
Chapter 5 AIに仕事を遂行させる英語実践術


