スマホもAIもなかった時代、英語はどう学んだ?1970~80年代の「アナログ英語学習」

スマートフォン一つあれば、英語の動画を見て、単語を調べ、発音を確認し、AIを相手に英会話の練習までできる時代になりました。一方、今から半世紀ほど前、英語の音声を繰り返し聞くだけでも専用の機材や教材が必要でした。1970~80年代の『ENGLISH JOURNAL』をひもときながら、当時の英語学習を振り返ってみましょう。

カセットテープから生成AIまで、英語学習の道具はどう変わった?

1971年、国際化社会の幕開けとともに月刊誌『ENGLISH JOURNAL』は誕生しました。生の英語音声を収録した「声の月刊誌」としてスタートし、2023年1月号で月刊誌としては休刊するまで、半世紀以上にわたって「使える英語」「生きた英語」を届けてきました。

その間、英語学習に使う道具も大きく変わりました。

カセットテープからCD、携帯型CDプレーヤー、パソコン、そしてスマートフォンへ。今では動画やポッドキャストなどで英語を聞き、オンライン辞書や翻訳サービスで調べ、生成AIを英語学習に利用することもできます。

インターネットにつながっていれば、いつでもどこでも大量の英語に触れられる現在。それでは、こうした環境がなかった1970~80年代、人々はどのように英語を学んでいたのでしょうか。

当時の『ENGLISH JOURNAL』の記事や広告を手掛かりに見ていきます。

70年代はカセットテープ隆盛の時代

1970年代は、カセットテープが急速に普及した時代です。若い世代の中には、実物を使ったことがない人もいるかもしれません。磁気テープを小さなケースに収めたカセットテープは、当時の音声記録メディアの主役の一つでした。

『ENGLISH JOURNAL』創刊当時のカセットテープ

2026年は、マクセルが国産初のカセットテープを商品化した1966年から60年に当たります。

1968年にはアイワがラジオとカセットレコーダーを組み合わせた「TPR-101」を発売。さらに1979年には、ソニーが初代ウォークマン「TPS-L2」を発売しました。音声を録音して聞くだけでなく、「持ち歩いて聞く」という楽しみ方も広がっていきます。

英語学習の世界でも、カセットテープは重要な存在でした。

1980年4月号の『ENGLISH JOURNAL』には、こんな記述があります。

英会話教材というと、すぐ思い浮かぶのがカセット・テープ。大きな書店にはたいていカセット英会話のコーナーが設置されているし、会話教材のセールスマンの電話に悩まされた人も少なくないであろう。

当時は、英会話教材といえばカセットテープを思い浮かべるほど身近な存在だったことが分かります。

1977年6月号の『ENGLISH JOURNAL』の広告欄を見ると、「通訳訓練通信テープ講座」の広告も掲載されています。

『ENGLISH JOURNAL』1977年6月号に掲載された英語の通信講座の広告

1時間分を収録したカセットテープ30本と教本10冊の通信講座が、約7万円。当時の新規学卒者の初任給が約10万円だったことを考えると、かなり大きな買い物です。

しかし、まとまった量の英語音声を手元に置き、好きなときに繰り返し聞けること自体に大きな価値があった時代です。

今ならスマートフォンを取り出して数秒で聞ける英語の音声を、当時はお金を出してカセットテープという「物」として手に入れていたのです。

テレビやラジオ講座を使って英語を学ぶ

テレビの英会話講座も、生の英語を耳にできる貴重な機会でした。

1980年4月号の『ENGLISH JOURNAL』では、NHKの『英語会話』を使った学習法として、次のように紹介しています。

基礎的な会話文を、テレビについて何度も声に出し、英語に慣れることがこの段階では大切なことだ。歌の時間もあるから、そのときは音痴であることなど忘れて、とにかく歌ってみよう。メロディーがついた英語はいったん覚えたらなかなか忘れない。最初のうちはゲストの話などかいもくわからないかもしれないが、なに心配することなどない。英語に耳が慣れてくれば、おぼろげながら何について話しているのかわかってくる。

「テレビについて何度も声に出し」という言い回しに時代を感じますね。

家庭でテレビ番組を簡単に録画して、好きなところを何度も再生することが今ほど当たり前ではなかった時代です。テレビの前で、流れてくる音声をその場でまねして声に出す。放送時間そのものが、英語を練習する時間だったのでしょう。

「メロディーがついた英語」を歌って覚えるという方法も紹介されています。簡単に巻き戻したり再生したりできないからこそ、耳にした英語を少しでも記憶に残すための工夫だったのかもしれません。

ラジオも重要な学習手段でした。

在日米軍向けラジオ放送のFEN(現AFN)や、BBC、Radio Australiaなどの海外放送を聞き、英語に耳を慣らした人もいました。BBCの場合は、毎日夕方6時すぎから日本向けに送られてくる短波放送番組を聞いて勉強したといいます。

ただし、放送を聞くための機材をそろえるにもお金がかかります。

『ENGLISH JOURNAL』1982年2月号「こうすれば放送英語は聞きとれる」から

当時紹介されていたソニーのバンドラジオは3万3000円。映像を見ながら学習するためのビデオディスクプレーヤーは24万8000円でした。

さらに、英語学習用の「サウンドペーサー」という機材もありました。

普通のテープレコーダーでは、再生速度を変えると音の高さも変わってしまいます。このサウンドペーサーを使えば、音の高さを大きく変えずに0.8~2.0倍の速度で再生できたといいます。価格は6万9800円。

現在なら、スマートフォンやパソコンの再生速度を画面上で変えるだけで済む機能に、専用の機材が必要だったわけです。

英語学習に使えるコンテンツが豊富になっただけではありません。かつては高価な機材を使わなければできなかったことまで、今では多くが一台のスマートフォンでできるようになっています。

ネットの代わりに活躍したリファレンスブック

音声だけではありません。英語を「調べる」環境も大きく変わりました。

本を読んでいて分からないことに出合ったり、論文やレポートを書くためにデータが必要になったりしたとき、現在ならまずインターネットで検索する人が多いでしょう。オンライン辞書やデータベースを使ったり、生成AIに質問したりすることもできます。

では、インターネットのない時代には、どうやって調べていたのでしょうか。

そこで活躍したのが、百科事典、年鑑、団体便覧、人名録などの「リファレンスブック」です。

例えば、ある人物について調べようと思ったときに利用されたものの一つが人名録です。

アメリカの代表的な人名録であるMarquis's Who's Whoなどには、人物の職業や所属機関などの情報が掲載されています。

人名録にはさまざまな種類があり、中には海外へ旅行するアメリカ人のために、世界各地にいるアメリカの免許を持つ医師を掲載したTraveler's Guide to U.S. Certified Doctors Abroadのようなものもあったそうです。

こうした専門的なリファレンスブックは高価なものが多く、個人で全てそろえるのは簡単ではありません。

必要な資料を読むために、アメリカン・センターやブリティッシュ・カウンシルなどへ足を運ぶこともありました。

分からない言葉や人物について、その場でスマートフォンから検索できる現在とは、情報にたどり着くまでに必要な時間も手間も大きく違います。

道具は変わっても、英語学習の基本は変わらない?

1970~80年代の英語学習を振り返ってみると、今の学習環境がいかに便利になったかがよく分かります。

当時は、英語音声を手に入れるにも、再生速度を変えるにも、外国の情報を調べるにも、それぞれ教材や機材、場所が必要でした。

現在は、スマートフォン一つあれば、英語を聞き、動画を見て、単語を調べ、発音を確認し、分からないことを検索できます。AIを相手に英文を作ったり、英会話を練習したりすることさえ可能です。

ただ、昔の学習法を見ていると、道具が大きく変わっても、英語を身に付けるためにしていること自体は意外と変わっていないことにも気付きます。

音声を何度も聞く。声に出してまねをする。知らないことを調べる。そして、一度で分からなくても繰り返す。

1980年の『ENGLISH JOURNAL』が勧めていた「テレビについて何度も声に出す」という学習も、今なら動画を止めたり戻したりしながら行うシャドーイングや音読につながるものがあります。

一方で、今は学習コンテンツがあまりにも豊富です。次々に新しい教材や動画を探しているうちに、一つの素材をじっくり繰り返す機会が減っている人もいるかもしれません。

学習の道具は、50年前とは比べものにならないほど便利になりました。でも、英語を聞き、声に出し、繰り返し使うという基本まで、機械が代わりにやってくれるわけではありません。

昔の不便な学習環境を知ることは、懐かしむためだけではなく、今ある便利な道具をどう使うかを考えるきっかけにもなりそうです。

ENGLISH JOURNAL編集部
ENGLISH JOURNAL編集部

英語を学び、英語で学ぶための語学情報ウェブサイト「ENGLISH JOURNAL」が、英語学習の「その先」にあるものをお届けします。単なる英語の運用能力にとどまらない、知識や思考力を求め、「まだ見ぬ世界」への一歩を踏み出しましょう!

初回公開:2021年3月26日/更新公開:2026年9月26日

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